STORY
「だから俺は少女を愛するのを辞めた」
田中は限界に達した。
田中はこれまでの人生を、年の離れた《少女》にばかり執着して生きてきた。
現実の世界でも、二次元の世界でも、彼が愛したのは少女だった。
だが、それもここまでだ。
田中の魂がうめきをあげる。
たったいま、生涯108回目の《少女》への告白は無惨に散った。
一度も成功したことなどなかった。
一度も性交できないまま、108回目の真心を手酷い罵倒の言葉で剔られた。
「もう、この生き方にピリオドを打ってもいいんじゃないか? そうしなければ絶対に幸せになんてなれっこない。 奥さんを手に入れて、家族を手に入れて、この心をあたたかくしなければ俺は死んでしまう……」
性的嗜好に関わるものすべてを捨て、田中は婚活をした。 そこで出会ったのは、108回の傷心をひと息に癒やそうとするかのような女性、愛宮麻衣だった。
「……この人、なんでこんなに俺のことわかってくれるんだろう?」
この人となら、俺は《真人間》になれるんじゃないか。
誰からも後ろ指さされることなく、罵倒されることもなく、幸せな家庭を持つ夫になれるんじゃないか。
だけど──。
田中は迷った。
とてもいい人だけど──。
とても魅力的だけど──。
性的対象としてチンポが反応したわけじゃない。
そんなんで結婚なんかしていいのか?
田中はその迷いに目を背けた。現実を見つめるために。
俺は過去を捨てた。俺はもう、今までの俺じゃない。やれる……やらなきゃいけないんだ。
そう心を固めて、田中は──愛宮麻衣を妻にした。
だが、運命は田中の眼前に禁断の果実を意地悪くぶらさげた。
愛宮麻衣には、それはそれはかわいらしい二人の娘がいたのである。